「すべての悩みは対人関係の悩みである」
──この一言にドキリとしたことがある人、私だけじゃないと思います。
心理学にはフロイトやユングのような巨人が多くいますが、「アドラー心理学」は、近年になって爆発的に再評価されるようになった心理学のひとつ。とくに『嫌われる勇気』という本を通して、アルフレッド・アドラーという人物の存在が一躍有名になりました。
でも「名言だけが有名な人」と誤解している人もいるかもしれません。そこで今回は、アドラーの心に響く名言たちだけでなく、その生い立ちや業績にもじっくりと目を向けてみたいと思います。
読み終えるころには、アドラーがなぜ今もなお支持されるのか、きっと納得していただけるはずです。
アルフレッド・アドラーの名言とは?
アドラーの名言は、どれもまっすぐで、核心をついています。たとえばこんな言葉があります。
「人生の意味は、あなたがそれに与える意味によって決まる」
この言葉を初めて読んだとき、私は思わず画面を閉じて考え込んでしまいました。人生に意味があるのではなく、自分が意味を与える──まるで、今ここに生きる責任を突きつけられたような気がしたのです。
ほかにも、
「勇気とは、困難に立ち向かう意志である」
「あなたを苦しめるものは、出来事そのものではなく、それに対するあなたの捉え方である」
など、自己責任と前向きな意志を促すフレーズが多いのが特徴。これらの言葉は、一見冷たく感じるかもしれませんが、実はとても温かい。「あなたならできるよ」と背中を押してくれる、親身な助言のようでもあるのです。
アルフレッド・アドラーの生い立ちとは?
アルフレッド・アドラーは1870年、オーストリアのウィーンで生まれました。幼い頃から体が弱く、肺炎やくる病など、命に関わる病気に何度も苦しんだといいます。
この体験が、彼の生涯に大きな影響を与えました。なぜなら、彼は「人が劣等感を乗り越えていくこと」に強い関心を抱くようになったからです。自分自身がまさに、「劣等感の塊」だったのです。
アドラーは医学を志し、最初は眼科医として働いていましたが、やがて神経科に転向。そして精神分析の世界へと足を踏み入れていきます。
興味深いのは、彼がかつてフロイトの仲間であったという事実。精神分析の草創期を共に歩んだものの、考え方の違いから袂を分かち、独自の「個人心理学(Individual Psychology)」を打ち立てるに至りました。
アルフレッド・アドラーの業績とは
アドラーの最大の業績は、やはりこの「個人心理学」の提唱にあります。ここでは人間を「全体としての存在(holistic)」と捉え、また「社会とのつながり」の中で成長していく存在であると強調しています。
彼の理論には、以下のような特徴があります。
- 劣等感と補償:劣等感は悪いものではなく、むしろ成長の出発点。そこから人は補償行動を起こして、自分を乗り越えていく。
- 目的論:人は過去のトラウマに縛られるのではなく、未来に向かって行動する。
- 社会的関心(共同体感覚):幸福とは「他者とのつながり」を感じながら生きること。
この考え方は、現代のポジティブ心理学やカウンセリング、さらには教育現場でも活用されるようになっています。
たとえば、子どもがいたずらをしたとき、「なぜそんなことをしたのか」と叱るのではなく、「何を伝えたかったのか」と捉える。こうした見方も、アドラー心理学の影響が強いのです。
最後に
アドラーは、決して派手な人生を歩んだ人ではありません。むしろ地味で、理論的で、時に厳しくさえ感じられる言葉を遺した人です。
でもその言葉は、どこまでも「自分の力で人生を変えることができる」と語りかけてくれます。私自身も、車椅子生活の中で「何もできない」と塞ぎ込んだとき、アドラーの言葉に何度も救われてきました。
「課題の分離」という考え方に出会ったとき、私は初めて「他人の期待から自由になっていいんだ」と心から思えたのです。
人と比べない。過去にとらわれない。そして、自分の人生に意味を与えて生きていく。それが、アルフレッド・アドラーが私たちに伝え続けている、いちばんのメッセージなのではないでしょうか。
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